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「いい判断だ」
「え…?」
歩き出すべく身を翻した私の耳を聞き覚えの無い声が貫いた。
九里のとは違う、男性の声。
声のする方に振り返ろうとすると突然身体が何かに引き寄せられた。
「まさにこいつは人間を欺く悪霊だ。そう思わない?」
身体の行き着いた先は黒いジャケットだった。
ぽすっと顔がジャケットに当たると香水のような匂いがふわりと香った。
上を向くと稲穂のような金色の髪…。
誰…?!
「きゃっ…!!」
同時に巻き起こる竜巻のような二つの風。
それは片方は熱く炎を纏い、片方は冷く霰のような氷の粒を纏っていた。
やがて風速は弱まると、
その中心には見た事も無い生き物が九里の方を見据えて浮かんでいた。
「今日は馳走だ。
存分に味わってやれ。蒼龍、紅龍。」
そう、それはまさに
龍…
龍…?!
「クソッ…!まさかこんなに早く…!」
九里は焦ったように身構えた。
腕に抱かれた赤ん坊が何かに気づいたのか泣きじゃくり始める。
「さて子連れ狐…お前ら妖怪共は一体何を企んでるんだ?」
私を抱き寄せたまま、その声はたんたんと紡がれる。
見たところ私とそこまで年の差はなさそうだ。腕に数珠を付け、金の短髪にピアスを開けたその青年は、お札のような縦長の紙切れを手にニヤリと笑う。
「お前に話す事なんか無い」
依然として泣き続ける赤ちゃんは泣き止む様子は無い。
「あの…話が見えないんですけど…」
話に割って入るのも気が引けたが今の状況を何とかしたかった。
早く離して欲しい。
「ああごめんね、キミは部外者だもんね。」
ニコリと笑って私を解放…してはくれないようだ。
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