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――慶安二年、如月――
「仕官するつもりはないと、何度も言うておろう」
少しいらついた口調でそう言い放ったのは、年若き軍学者・由井正雪である。
「城へ帰れ。おぬしらの言葉を聞く耳は持たぬ」
「し‥しかし正雪様、登城の際は多大な恩賞を与えると上様は仰せで‥‥」
正雪は手にした扇子をしきりに動かしている。
いっこうに引こうとしないこの幕府からの使者を前に、彼はいらつきを隠せないでいた。
「帰れと言うておるのがわからぬか!」
しびれをきかせたこの言葉に、使者は戸惑いつつも短く、は、とだけ答えようやく部屋をあとにした。
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