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正雪はふう、と溜息をつくと襖に向かい
「盗み聞きとは趣味が悪いのう、忠弥」
「なんだ、ばれていたか」
忠弥と呼ばれた男はがしがしと頭を掻きながら部屋に入って来た。
丸橋忠弥
赤みがかった髪を持つ、背の高い青年である。
宝蔵院槍術の使い手であり、その腕前は江戸に道場を開くほどのものであった。
「しかし、幕府もしつけぇな。よっぽどあんたを引き入れておきたいらしい」
「ふん、こんな一庶民の才を借りようとするとは、徳川も堕ちたものじゃ」
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