報せ

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――慶安二年、師走―― 庭を流れる小川は凍りつき、辺りの草木は雪化粧を施していた。 あれから季節は流れ、外を歩く者は白い息で指先を温めるような日々が続いている。 とある学塾の縁側では、漆黒の着物を纏った男が一人、書物を手にうたた寝をしていた。 「しょ、正雪様ぁ!」 ばたばたという足音とともに、建物中にその声が響き渡る。 「…何事じゃ」 大声で名を呼ばれ起こされた男は、いささか不機嫌な様子だ。 「大変です!これを!」 何やら怪しげな文に眉をひそめつつも、ざっと目を通していく。 「老中、松平信綱様より登城命令にございます!」 「……おぬし、わし宛ての文を先に読むのはやめろと、何度も言うておろう」 「す、すみません」 じっくりとは読まずにそれを懐にしまうと、正雪は立ち上がった。
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