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松平信綱の登城命令の件はまたたく間に塾内に広がり、何人もの門下生が正雪を止めようとした。
「正雪様、なりません!一人では危険すぎます」
「せめて、忠弥様のお帰りを待たれては…」
しかし彼らの制止を振り切り、正雪は馬屋へ向かう。
正雪を心配して外に出て来た門下生達の中には、半兵衛の姿もあった。
「皆の者、心配は無用じゃ。すぐに戻る」
男達がざわめく中、半兵衛は一人俯き黙り込んでいる。
「半兵衛」
不意に名を呼ばれ、半兵衛は顔を上げた。
「留守を頼むぞ」
正雪の真っ直ぐで、力強い視線に半兵衛は目をそらせなかった。
(正雪様にはお考えがある。それを信じるのが僕の役目じゃないか)
半兵衛は自らの師の眼差しに答えるべく、力強くうなづいてみせた。
それを見て正雪は、安心したように踵を返す。
「……お気をつけて!」
目の前を馬で走り去ってゆく自らの師を、彼は大きく手を振って見送った。
外の空気は相変わらず身を斬るように冷たいが、今ばかりはそれを微塵も感じない。
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