報せ

5/19
前へ
/79ページ
次へ
松平信綱の登城命令の件はまたたく間に塾内に広がり、何人もの門下生が正雪を止めようとした。 「正雪様、なりません!一人では危険すぎます」 「せめて、忠弥様のお帰りを待たれては…」 しかし彼らの制止を振り切り、正雪は馬屋へ向かう。 正雪を心配して外に出て来た門下生達の中には、半兵衛の姿もあった。 「皆の者、心配は無用じゃ。すぐに戻る」 男達がざわめく中、半兵衛は一人俯き黙り込んでいる。 「半兵衛」 不意に名を呼ばれ、半兵衛は顔を上げた。 「留守を頼むぞ」 正雪の真っ直ぐで、力強い視線に半兵衛は目をそらせなかった。 (正雪様にはお考えがある。それを信じるのが僕の役目じゃないか) 半兵衛は自らの師の眼差しに答えるべく、力強くうなづいてみせた。 それを見て正雪は、安心したように踵を返す。 「……お気をつけて!」 目の前を馬で走り去ってゆく自らの師を、彼は大きく手を振って見送った。 外の空気は相変わらず身を斬るように冷たいが、今ばかりはそれを微塵も感じない。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加