報せ

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――――――――― 「お初にお目にかかりまする。由井正雪にございます」 江戸城の一角、広々とした客間には、老中松平信綱とその控えの者数人が顔を並べていた。 彼らの前で、正雪は頭を下げたまま畏まった挨拶をする。 「面を上げい」 信綱が二度促してやっと、二人は初めて顔を合わせることとなった。 (これが、老中松平信綱) 正雪は、威風漂わせるこの初老の男をじっくり観察した。 「これはこれは、由井殿。此度も来ていただけないと思うとったが」 「ご無礼つかまつり申した。天下の徳川家への仕官など、この正雪には荷が勝ち過ぎますゆえ。お許しいただきたく存じまする」 仕官の件について信綱が関わっていないことを正雪は知っていたが、彼はこの皮肉をさらりと受け流した。
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