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春の風が頬をなぜる。
冬の終わりを告げる、暖かな風である。
やわらかい陽射しを全身に浴びて嬉しそうに鳴く雛鳥とは裏腹に、正雪の心は晴れないでいた。
つねに縁側に置いてある愛用の碁盤に、ぱち、と音を立てながら、いつものように碁石を並べていく。
――自分が戦の世に生まれていれば――
先程の忠弥の言葉が、頭から離れない。
一つ、また一つと石が並べられ、黒と白がそれぞれの陣形を為し始めた。
(これではまるで、戦を望んでいるようではないか。)
正雪は幼い頃に大坂の陣を目の当たりにし、戦の悲惨さを今もその心に刻んでいる。
それが彼にとって、最初で最後の戦であった。
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