天才軍学者

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「川中島合戦にて武田信玄が用いた、啄木鳥戦法でございますね」 不意に声をかけられ、目だけでその声の主を見やる。 「…半兵衛か」 にっこりと微笑んで、今日は気持ちの良い天気ですね、とその男は軽く会釈した。 金井半兵衛 彼もまた正雪の門弟の一人である。 父親が長州藩毛利家の家臣であり、その頃毛利家を出入りしていた忠弥にその才能と人柄を見込まれ、この塾へと身を寄せていた。 まだどこかあどけなさを残す、愛想のよい青年である。 「この戦略は上杉の戦術によって失敗に終わったがな。しかしまことに奇抜な戦略じゃ」 「それを見事にかわすあたり、さすがは軍神といったところでしょうか」 盤上で陣を形作る碁石が、かつて川中島で繰り広げられた武田・上杉両軍の凄絶な戦を物語っているようであった。
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