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「はあ、良かったぁ」
彼女はほっとしたのか、コーヒーを口に運んだ。
「何が良かったの」
間の気まずさと言葉の真意を知りたい気持ちから、間髪入れずに彼女に質問した。
「来春から、うちの子が二小の一年生なの」
すぐさま僕の疑問に答えた。
「うちの子って、剛との…」
「うん、そう」
そう一言だけ言うと、またコーヒーに口を付け、カップを皿にゆっくりと置いた。
「名前はつくし。それに、ずいぶん前から私は金井よ」
「ああ、そうだった。で、えっと……つくしちゃんだっけ」
「"つくし君"よ。男の子」
「へぇー。男の子でつくしって名前は珍しいな」
僕もいい加減にのどが渇いたので、コーヒーに手を付けた。
「あの人が決めたの。"男でも女でも絶対に名前はつくしだ"って」
そう言っている剛が容易に想像できてしまい、思わず吹き出しそうになった。
「親の前で子供の名前を笑うのって失礼じゃない」
山崎、改め金井美香は目を細めながら僕に言ってきた。
「いや、ごめんごめん。そっかぁ、もうそんなに経つのかぁ……」
僕は、コーヒーカップをそっと受け皿の上に置いた。
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