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少年は そもそも 今回の旅行には
乗り気じゃなかった
先週の作文発表で
「戦争を否定したら戦って死んでいった
先人たちの立つ瀬ないんじゃないのか?」
みたいな内容をバカ正直に書いたために
担任の教師に長時間に渡る説教を受け
半ばふてくされていたからだ
自分の意見も偏ってることは否定しない
だが 生徒の一つの意見として捉えず
顔を赤くして怒り狂う教師も
なんか違うんじゃないかと
小さいながらも疑問に感じていたし
何も疑問に感じない周りとの距離感も手伝って
この集団と旅行に行くことに抵抗を感じていた
学校から貰った修学旅行のしおりを
ぼんやりと眺めながら
少年は事務的に旅行の荷造りを行っていた
正直 行きたくなかった
しかし 家計が苦しい中
なけなしの金を積み立てて貰って
旅行に行くことが可能になっている手前
言い出すことも憚られた
荷造りも そこそこに終わらせ
しおりに書いてあるスケジュールに目をやると
一日目の夜は肝試しを行うようだ
例の島で製造した毒ガスにより
戦場では夥しい数の死者が出たと言われてるし
作業に関わった工員の中にも
誤って毒ガスに触れて亡くなった者もいる
怖くないと言えば嘘になるが
そんな場所で遊び半分で
肝試しして本当に大丈夫なのかと
いささか不安だった
一方 少年とは対象的に
明日の旅行を心待ちにする者がいた
美咲は 明日のために買ってもらった
水色のワンピースと白のカーディガンを羽織って
姿見の前に立っていた
母親には旅行なんだから
もう少し動きやすいのにしたらと
口うるさく言われたが
せっかく楽しみにしていた旅行
ばっちり おめかしして行きたいし
写真にも残るから
ヘンな格好だけは したくなかった
小学校生活最後の一大イベントを前に
美咲の心は踊り 思わず鏡の前で
ニコリと笑みを浮かべた
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