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「他にその人を特徴づけるもの,ないのか?」
「えと…えーと…………あ! わたしその人の忘れ物を持ってるの」
「それを先に云えっ!」
「えへへー。ほら,これなの」
仔狐は首に巻いていたマフラーを大切そうに外し,藤に差し出す。
淡い青で編まれたそれは大分薄汚れていた。
なるべく傷付けないように優しい手つきでマフラーを観察していると,端の方に小さく名前が書かれているのが分かった。
「読みにくい……えっと……。あお,い……きょ…うや……?」
葵 京耶。
――ってこれはまさか
さぁっと音がしそうなほど,藤は一瞬にして青ざめた。
仔狐が聞く。
「どうかしたの…?」
「え。あ,いや…その……も,もしっ! その人が君を憶えてなかったり,姿が見えなかったとしたら――君は,それでもいいのか?」
仔狐は質問に戸惑ったが,すぐに仄かな笑みを浮かべた。
「別に…見えなくてもいいの。憶えてなくてもいいの。
――ただ逢いたいの」
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