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「あーもー帰れっ」
少年が必死に追い払おうとしているのは一人の少女――に見える狐の妖<アヤカシ>と呼ばれる類のモノ。
まだ小さいせいで特有の耳と尻尾が隠しきれていない。
「でもっでもっ。杜生<モリオ>家の方ならきっと何とかしてくれるって。話を聞いてくれるって,母さまがおっしゃってたの。母さまは嘘をお吐きにはならないから,だから……」
今ならまだ間に合う。
今なら,仔狐なんて見なかったことにして何事もなかったかのように過ごせる。
ほら。情に絆<ホダ>されるな,俺。
一時の感情に振り回されるなんて二度とごめんだ。だから。
「だーかーらー! 俺は妖なんて大嫌いなんだって! ついてくるなっ」
「でも…」
「早く,帰ってくれ」
「……どうしても?」
「うっ……」
うるっと涙で濡れたつぶらな瞳で見つめられ(しかも上目遣い),少年は強気な表情を崩した。
子供は苦手だ,すぐ泣くから。
どう切り抜けるか頭の中で算段していた少年だったが,ふと仔狐から香る甘い匂いに気が付いた。
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