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「……お前,桜の花を…つけてるのか?」
「うんっ!」
仔狐は構ってもらえたことに喜び,ぴょんと飛び跳ねた。
「妖の世では満開で,母さまが匂袋をつくってくれたの」
「へえ。いいな……人の世ではまだ咲かないから――…」
二月下旬。
もうすぐ,彼女と出逢った春が来る。今は"桜"が咲くにはまだもうちょっと早い。
「あなたは桜好き?」
――それは,もう
「世界で一番大好きな花だよ」
「そうなの?」
少年の複雑そうな切ない表情を訝しんだのか,仔狐は首を傾げた。
「じゃあ…」
仔狐はにっこりと笑って着物の袂から小袋を取り出し少年に差し出した。仄かな匂いが鼻孔をくすぐる。
「匂袋……?」
「そう。わたしはまたもらえるからあなたにあげる」
「…え? ちょっと待て,俺はお前にお返しとかないぞ。こんな綺麗なもの,受け取れない」
「いいの。あげる」
暫く悩み考えていた少年だったが桜の誘惑には負けたらしく,おずおずとその小さな匂袋を受け取った。桜に合わせて薄桃色の布で赤い紐がついている。
「……それじゃあね!」
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