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「え!? ちょっと,少し待て……っ」
手を振り軽やかに駆け出した仔狐の襟首を掴んで引き寄せる。
仔狐はきゃあと可愛らしい悲鳴をあげてじたばたとした。不思議そうに少年を見つめる。
「……少しだけ,聞く」
唐突に放たれた言葉。
仔狐は一瞬眉を寄せ――ぱぁっと顔を明るく輝かせた。
「聞いてくれるの? わたしのお願い」
「……とりあえず,聞くだけは……。叶えるかはまた別だからな。あんまり妖に借りを作りたくないし」
それに,と少年は心の中で付け加えた。
――仔狐が,ほんの少しだけ彼女に似ている気がした
物事にいつだって真摯で天真爛漫,あの無邪気だった彼女に。
「うんっ! ありがとう,えと……」
「……藤」
「ふじ?」
「ああ。俺の名前は――
杜生 藤だよ」
少年――藤は小さく笑んだ。
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