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バシャバシャと足下で跳ねる雨水に眉を寄せながら、足早に街を抜けていく。
雨雲のせいでだいぶ暗いように思えるが、木蓮には「必ず誰か捕まえろよ!」と捨て台詞を投げてきたのできっと大丈夫だろう。
ちなみにココアはさっさと飲み干してゴミ箱に投げ入れて来た。
今日は確か喫茶店だ。
学校近くにバス停も立っているが、この悪天候。定時よりも遅れるであろうバスを待つより、走った方が早い気がするのでスルーした。のだが。
十五分ほど前に、スルーしたバスが横を悠々と追い越して行った。ちくしょう。
しっとりと湿気を含んで顔に貼り付く髪を剥がし、角を右に曲がる。
「うわっ!?」
「あ、すんません!」
衝突事故を起こしかけたスーツの男に軽く頭を下げて、また走る。バス停を通過。もう遠くない。
少し規模の小さい予備校を通り越して、数階建てのファーストフード店、コンビニ、それと少し大きめの本屋。その他色々。
通過したバス停から五分ほどで、小洒落た喫茶店に到着。目的地だ。
「はー…っ、はー…」
バスを使えば良かった。本当に。
息を整えながら喫茶店の窓を見れば、窓際の席に腰を下ろした篝火がきょとんと目を丸くしていた。それから眉尻を少し下げて、笑う。
畳んだ傘を片手に喫茶店の扉を押し開ければ、カランカランと軽い音が雨音に混ざり込んだ。
傘を扉の脇に備え付けてある傘立てに差し込み、案内をと前に出てきた店員に断りながら窓際の席へ。まだ笑ってやがる。
「なーに、迎えに来てくれたんだ? あ、アイスティーもうひとつね」
面白そうに目を細める篝火が店員へ注文を付けるのを見つつ、向かい側の椅子に腰を下ろす。
「傘持ってねェんだろ」
「うん、持ってなかった」
「だろ。いつ上がった?」
ついさっきかな。
そう緩やかに笑う向かい側のコイツは、少しだけ足の弱まった雨が上がるのを、期待せずに待っていたらしい。期待せずに待つくらいなら呼べよ。
「まさかアヤが走って来るとは思わないだろ。バスは? 使わなかったの?」
「雨ひでェし定時に来なさそうだったからパスした。ら、追い越された」
「ふっ、なんだそれ! あはははっ」
「笑うな!」
我ながらあれにはショックを受けたんだ。えぐるな。
先ほどの店員が持ってきたアイスティーを受け取りながら、未だくすくすと笑う篝火に苦笑い混じりの溜め息を吐き出した。
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