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「な゛あああああ゛ッ!!!」
「うわ、うるさっ!」
放り投げられた六丞のシャーペンが荊の頭上を飛んで、カシャンと床へ落ちた。
世の学生が天敵に向けて備える季節。
それは鞍馬学園も例外ではなく、中等部二年生は来るべき学期末テストという強敵を迎え撃つべく、ファーストフード店で勉強会を実施していた。
ガチャガチャとボックス席のテーブルを寄せてノートを広げる学生たちを、そういう季節になったのかと食事中の客も懐かしく見守っている。
「数学とか意味わっかんねーもんマジで! ナニコレ! もう何か召喚できんじゃねーの!」
「あははっ! 召喚できたら面白いよなー」
「数学の授業賑やかになるねー!」
「いやいや絶対出るって! なんかこう、ドラゴン? みたいな? そんなやつ!」
燵篭と紀依の笑い声に身を乗り出し、熱弁。
そんな六丞の頭を薄紫色のノートがぴしゃりと叩いた。
「あいたっ!」
「そんな間違いだらけの数式で召喚できるのは補習くらいだよ、まったく」
叩かれた頭を擦る六丞がノートの持ち主を見れば、そこでは腕を組んだ紫妃が呆れたように溜め息をついていた。
それまで六丞の熱弁を苦笑いで聞いていた荊も、予定外である紫妃の登場にきょとんと視線を貼り付ける。
「姫! どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、キミがここに居るって言ったんでしょ」
「確かに言ったけど…」
何を当たり前のこととばかりに首を傾げれば、紫妃は当然のように荊の左側へと腰を下ろす。
途中で拾った桃色のシャーペンは六丞の開けっ放しなペンケースに刺して。
「先輩、今日はバイトだったはずでは?」
今日はモデルのバイトが有るのだと荊から聞いていたようで、荊から勝手に飲み物を頂戴していた紫妃が視線を移せば、向かい側の央千代がちょんと小首を傾げている。
あまり興味のある話題ではなさそうだが、なんとなく、またはとりあえず口にしてみたいったところだろうか。
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