ある特別ないつもの日

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 建ち並んだ高層ビルを掻い潜って歩く。  空を見上げると、どんよりと淀んだ灰色が塗りつぶしている。  痺れるような寒さに僕は拳を握った。  吐く息は白く、溜め息は幸せが逃げるという迷信を視覚化しているようだった。  と、同時に何かが。この都会に紛れるようになった頃持っていた、滾るような気持ちも消えていっているような気がして。  これが子どもの頃憧れた「大人」なのかと苦笑いが零れた。  駅のホームには「社会」を着た大人達が窮屈そうに溢れている。僕もきっとその中の一人。  ダイヤ通りに運行する電車に目一杯人が乗り込む様は、売られて行く仔牛を見ているようだった。
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