ある特別ないつもの日

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 そうして、灰色がすっかり黒になった頃、疲れきった僕は扉を開く。 「ただいま」  返事はない。ただ薄暗い玄関先でアナログ時計の几帳面に時を刻む音だけが響く。 「まあ、そりゃそうか」  居間へのドアをゆっくり開くとパチリ、と何かを覚ますような音が聞こえた。  眩む光に目を細める。目が慣れるまでと手で覆った。 「おかえり!」 「お帰りなさい」  下手くそな折り紙の輪が懸命に装飾した赤と緑の居間に大小の輪郭。 「ま、まだ起きてたのか?」  僕は目を瞬いて間の抜けた声を上げた。もう寝ているだろうと思っていたから。
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