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この寒い時期に外に出るなんてお肌の敵、髪に悪影響、内臓を冷やすと抵抗力が下がるんだよ。
悶々とそれらしい理由を述べて結夢が暖かい室内にへばりつくのは毎冬のことだ。
だからいまさら結夢に買い物を頼もうとも思わなかった。手数料がかかるとか時間がかかるからとかいうもっともな理由
をあげて結夢に銀行に出かけろとも言わなかったし、たまには実家に(あるのかは知らないが)顔くらい出さなくていいのか、とも言わなかった。
冬というのはなんとなしに寂しくなる季節なのよ。人と温もりを共有したくなる季節なの。だから秋口にはカップルがたくさんできるし、クリスマスには無宗教のくせに人で暖を取ろうとするし、寒いからってこれ幸いと初詣だったりバレンタインデーだったりが制定されてるのよ、と乙女嗜好なのか偏見に偏っているともとれる意見をだしたのはやっぱり結夢だった。
昨日の諍いもなんのその、まるで何もなかったかのように、指でつつけば弾けて消える泡沫だったかのように、二人の間ではないものとして扱われている。
「本当にそうなのかな……?」
結夢の、細くて女の子らしく、そして少し泣きそうな声が耳の奥にこだましてきらりと光った。
心の深い場所……容易に触れてはいけない領域に踏み込んでしまったことに気づき、一瞬後にはごめんなさいと震えた声。
苦笑するしかなかった。それと同時に分かっていたことだと頭の中で納得もしている。
私のこの居場所は私だけのものではない。私がいなくなれば別の誰かがやってきて、私の代わりに機能は果たされて社会はうまく回っていく。
社会とはそういうものだ。
替わりなんてどこにでもいる。替えの利かない人間なんてどこにもいない。
誰もがわかっているのに、誰もが納得したくなくて目を逸らしているのだ。
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