愚かなる者は小さく嗤う

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 終わりは始まりである、と言ったのは古の聖人だろうか。それとも一昔前の政治家だったろうか。 霧の彼方にある遠い昔、自分は神様というものを信じていた。神聖な人、触れることもできぬ尊い存在。人の力の及ばぬ大きなエネルギーを内包した存在はかつて確かにこの身この心を支えていた……。  顔も思い出せない「誰か」に身ぶり手ぶりで祈り方を教わり、大きな、そして暖かい手に自分の両手をふんわりと包まれ祈りの言葉をつぶやいた。  小さな照れ隠しに舌ったらずな口調でわがままを言って叱られた、おぼろげな記憶。  部屋の片隅では鼠が無造作に転がる肉を食んでいた。  飽食の国などという言葉が氾濫した時代もあった。祈りが世界を変えると言われた平和な時代もあった。ああ、今となってはいっそ滑稽だ。ちっぽけな自分にとっては決して皮肉ではなく、祈りはパンのひとかけらよりも下等なものになっているのがおかしかった。  なにせ食べられないのだ。祈りで命は、長引かない。  自分でも不思議なことだが、私は眼前につきつけられた現実を凝視することにした。そうした時だけ胸の奥でひどく心が安らかになってくのだ。小さな鼠が大きな骸を食んでいる。どうだ、いたく「自然」なことじゃないか。 「誰か、いるのか――?」  そこには確かに人間がいた。  気だるげに寄りかかった壁に薄くなった背中をもたれさせている。だらりと垂れ下がった四肢。  女は――足はか細く、眼窩はうつろにぎらぎらと光っている――正確にいえばまだ少女だった。  内臓にはりついた腹の皮膚はぷっくりとふくれ、手足は骨を透かすように頼りない。触れれば柔らかい子供特有の体はそこには存在しなかった。  ましてや、慈しみの視線に返す純情な光が、その虚ろな眼に浮かぶことなど一瞬たりともない。  
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