堀下智美という女

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「そろそろ、梅も膨らむ時期かしら。少し遅い紅葉も見物だけれど、やっぱり冬は冬のものが見たいよねぇ」  始終ほっこりとした笑みを浮かべてたわいのない会話をつづけた患者に、堀下智美はのんびりとした声を返すことにした。 「そうですね。今年は暖冬で秋が短くって、いきなり冬みたいですもんね」  寒い寒い、と肩をすくめて智美は今にも泣きそうな空を患者越しに見上げた。  空間を仕切る一面ガラスは室内の蛍光灯に照らされてぴかぴかと光っていたが、その向こう側は吹きすさぶ風が肌の温度をあっという間に攫うに違いない。  あいにくと家電業のように時代の最先端についていく必要のない分野の業務なのでLEDライトなどいうものではない。例え自然や経費に余分な負担をかけようとも、そこは仕方がない。
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