序章 黒

2/3
前へ
/3ページ
次へ
燃える 燃える すでにスタン達が発した火術によって、建物の一階は火の海になっているはずだ。 燃えろ 燃えろ あとは、俺がここから脱出して、この起動ボタンを押すだけだ。 燃やせ 燃やせ 大丈夫、上手くいく。 ここまできたんだ。 最後まで油断しなければ… 壊せ 壊せ ――なのにっ! 「誰だっ!」 目の前に人影が現れたかと思うと、俺の前に立ちはだかった。 気は急いていた。 焦って、焦って… 「それはこちらの台詞だ。」 その声は野太く、やけに落ち着いていた。 一階は火の海。どこでどう破壊されるかも分からないこの状況下で、人影の男は静かに言った。 「私の建物に土足で踏み込み、火を放ち、破壊しようとしているのはお前たちか。」 一瞬驚いて、俺は笑った。 男の態度がおかしかった訳ではない。 そうしなければ、 俺は、自分を保てなかったからだ。 「見ての通りだが?それ以外になんの目的があるってんだ?」 「……。」 男は黙ってこちらを睨みつけていた。 年寄りではないが、 俺より数年長く生きている分、その目には鋭い力があった。 その表情に、どこか見覚えがある気がしてきた。 「お前……。コスティ、か?」 相手がコスティだと分かった途端、俺は今までの焦りが一気に吹っ飛んだ。 また笑いがこみ上げてくる。 「なるほど。」 男の目を見つめながら、俺は口元を歪ませた。頬を汗がつたっていったが、心臓はやけに静かだ。 俺は後ろについてきていた他のティーバに言いつけた。 「先にいけ。」 「えっ…?」 「早くしろ!」 「でも…」 戸惑う仲間に、俺は少し笑みを返した。 「頼むから、行ってくれ。もともと俺が始めたことだ。格好くらいつけさせてくれよ。」 少しきょろきょろしていたティーバの仲間達だったが、俺が何をしようとしているかが分かったからだろう。静かに、走り去っていった。 一番後ろのヤツが一度だけ振り向いたが、小さく頷いてやると、なにも言わずに走っていった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加