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そんな二人が駆け落ちなどする筈が無い。きっと怪我をして動けないのだと、お五の母親は村の男衆を集め、二人を捜してくれと頼みました。
けれど男衆は、下を向いて黙り込むばかり。
本当は、村人達も分かっていたのです。二人が駆け落ちなどしない事を。
となると二人は、帰って来ないのでは無く、帰って来れなかった理由があるのだ、と。
一同が黙り込むと、村長(むらおさ)が重そうに口を開きました。
ごとり様だ、と。
他の歳老いた者達は皆、それには薄々感づいてはいたのですが、口にするのが憚(はばか)られていたのですが、村長の一言を口火に、次々と口開きだしました。
あの森には、ずとり様が住んどる。
数十年毎に現れる。
沼に引き込まれただ。
きっと喰われちまったににげぇねぇ。
その話を聞いた若い男達は、誰も二人を捜しに行こうとはせず、中にはガタガタと震え出す者も出る始末だった。
業を煮やしたお五の母親が、この村の男は臆病者の薄情者ばかりか、と怒鳴りました。
するとそこへ、赤ん坊を背負った一人の女がやって来ました。
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