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「で……でも、て、天使って……み、見えるものなの……?」
「……天使は、字の通り、天からの遣い。……地上で生涯を終えた魂を、天へと送り届ける存在。……だから、見えるのは、死に逝く魂のみ」
ティアのその言葉に、瑞樹は戸惑いを隠せなかった。
「ま、待って。じ、じゃあぼく……し、死ぬの?」
「……いえ。あなたは、まだ生きている」
「な、なら、何で君が見えるの?」
「……わたしが、天使としての力を、失っているから」
「えっ……?」
瑞樹は、混乱していた。
なぜ彼女は、自らを天使と言ったのに、その力が無いと言ったのか?
「……天使は、翼によって、地上との隔離を図っている。……でもわたしは、その翼を持っていかれ、…………堕とされた」
真実を知った瑞樹は、言葉が出なかった。
「……だからわたしは、天使であって天使で無い」
自身で、自分の存在を否定したティア。
彼女と自分が、どこか似ている。
もしかしたら……と一瞬思った瑞樹だが、すぐにその考えを捨てた。
彼女は人間じゃないからと、理由をつけて。
「……羽、治るといいね」
「……いずれは治る。……でも、それはまだ先の話」
彼女はいったい、いつから地にいるのか。
気にはなったが、瑞樹は、詮索はしないことにした。
「……行くの?」
瑞樹が立ち上がると、ティアは表情ひとつも変えず、淡々と訊いてきた。
「……うん」
瑞樹は、それに小さくうなずくと、ゆっくりと歩き出し、公園を後にした。
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