孤独と孤独

6/16
前へ
/73ページ
次へ
「あ、足が滑った」 「うわッ」 廊下に、身体が叩きつけられた。 「悪ぃ悪ぃ、足が滑ったんだよ。ハハハッ」 「トロくせぇの」 「……っ」 翌日、校内にて。 瑞樹は、奥歯を噛み締めた。 「なんだよ? 文句でも言いてぇのか?」 「……いや」 眉間にシワを寄せて、ドスの効いた声で言われ、瑞樹は臆病になった。 起き上がって首を振り、そのまま自分の教室へと歩き出した。 しかし、教室へたどり着き、戸を開いた時。 「わッ!?」 頭上から、チョークの粉をふんだんにまとった黒板消しが落下してきた。 辺りに漂う粉塵を吸い込み、咳が出る。 「ケホッ、ケホッ……」 教室中から、こらえたような笑い声が微かに聞こえる。 うずくまる彼に、手を差し伸べる者は、誰一人としていない。 「はーい、席に着いて……、尾野くん!? だ、大丈夫!?」 次の教科の担当教師が、タイミング良くやって来て、瑞樹を心配する。 「……先生、ぼく、保健室行ってきます……」 「う……うん、わかったわ。誰か、尾野くんについていってあげて」 しかし、誰も答えない。 「誰もいないの? あなたたち、クラスメートを何だと思ってるのよ!?」 「先生、いいんです。……それと、すみません」 瑞樹はそう言うと、教室を後にした。 その後、瑞樹の教室から、校内では、温厚なことで有名な女性教師の、泣き叫ぶような怒昂が響き渡ったことは、言うまでもない。 .
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加