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「ただいま……」
「瑞樹!」
「う……」
帰宅すると、いつもこうだ。
公務員を勤める瑞樹の父は定時で帰宅するため、基本的に6時には家にいる。
それに伴い、瑞樹がその時間に帰っていなかった場合、玄関口で待機し、瑞樹が帰ったらすぐに罵声を響かせる。
瑞樹は、親を好いてはいなかった。
「いま何時だと思っている? 何か言うことはないのか?」
「……ご、ごめんなさい……」
「声が小さい。聞こえるように言え」
「……ごめんなさい」
瑞樹はそう言い、強引に父の横を通った。
「待て。何だ、その態度は? 親を何だと思っている?」
「……うるさい」
「何ぃ?」
呟くように発した瑞樹だったが、父にそれは聞こえていた。
胸ぐらを掴まれ、宙に浮かされる。
「反省くらいしろ!」
「がッ……!」
頬を殴られ、廊下に叩きつけられた。
さらに、その拍子に頭も打ち、鈍い痛みが瑞樹を苦しめる。
「まだ気が済まないか?」
「ぐッ!」
今度は、腹部に蹴りを入れられた。
瑞樹は一瞬、凄まじい吐き気を覚えた。
「あなた! やめてあげて!」
「……チッ」
騒ぎを聞きつけた瑞樹の母がやってきて、瑞樹を抱えて父を睨んだ。
「おまえが甘やかすから、コイツは女々しくなったんだ。いまから教えてやらんと、コイツはダメになるんだよ」
父はそう言うと、自室へ向かっていった。
「瑞樹……ごめんね。お母さんがしっかりしないから、あなたをこんな目に合わせてしまって……」
「……」
瑞樹は、母を退けて立ち上がった。
「待って。傷の手当てしないと……」
「いいよ、構わないで」
瑞樹はそれだけ言い放ち、階段を上がっていった。
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