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今にも落ちてきそうな夜空の星が煌々と輝いている。四月だというのに肌がビリビリと裂けていくんじゃないかと思うほどの寒さが続いていた。
寒いのは嫌いだから本当だったらコタツに潜り込んでゴロゴロとテレビを見ているところなのだが、俺は車に乗り山間の道を走っていた。
やっぱり俺は中毒なのか、こんなに澄んだ空と輝く星々を見たら車のトランクに天体望遠鏡を詰め込んでいた。それに、今年は七六年に一度の大切な日だ。そんな日に家でゴロゴロしているわけにはいかない。
向かうのはこの小さな山の頂上にある公園。そこには展望台があって空全体を見渡せるから、天体観測するには絶好のロケーションだった。
この辺りの山にはハイキングコースがあって、ハイカーだったりバードウォッチャーだったりがよくバカでかいリュックを背負ったりバカでかい双眼鏡やカメラをぶら下げたりしながら歩いているのをよく見かけるのだが、夜になると人の気配はなくただ静謐な闇が広がっているだけだ。
依然寒さは厳しいが春の匂いも色濃くなりつつある今日この頃、道路の両脇に生い茂る木々には新芽が萌えて、冬の寂れた山に活気が戻ってきていた。俺はその道を進む。だんだんエンジンも温まり暖房も効き始めた頃だが、そろそろ頂上に着く。
格子のように空を遮っていた木々の枝が消えて、空が開ける。
満点の星が輝いていた。
新月。月光に遮られることもなく、星々は頭上に輝いていた。
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