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「ここがわしらの村じゃ」
村というより町という人もいるだろう。逆もまた然り。そんな村だった。
突然、老人がにやりとしわしわな顔を歪ませ片手をあげ、ある方向を指差す。
老人が指す方向を見ると人が住んでいなさそうな平屋がある。
「あれが……なにか?」
「……あれがわしの家じゃ」
前言撤回。人は住んでいる。その住人が隣にいる。失礼なことを思ってしまった。
「まぁ、あがってくだい。お茶だすけん。そこいらに座ってて」
「あ、お気遣いなく……」
と言う間に老人はどこかへ行ってしまった。
囲炉裏が暖かい。本当に昔話に出てきそうなところだ。畳というよりござのような感じの部分が囲炉裏の周りを囲っている。違うところといえばすりガラスになっている戸があり台所が直通じゃないということだろうか。
辺りを見回すと、最近まで其処に何かがあったかのように、壁がやけに新しいところがあった。その下の方の棚に見たこともない置物が置いてある。
ちょっと遠いのと薄暗いのが相まって、ここからじゃ詳しくは見難い。
「おぉ、それか。それはメエチ様じゃ」
丁度よく、奥から老人がお茶を持って来ながら言う。
その言葉を聞いた瞬間、体から汗が吹き出る。なぜだろうか、触れてはならないものに触れてしまったような気がした。
「……あぁ、この村では全家庭がメエチ様を祀ってるんでしたね。どうも文献には写真がのってなくて」
「そうじゃ。メエチ様は昔この村を助けてくれたという。だから祀っておるんじゃ」
なぜだか偉そうに言う。
文献にも載っていないメエチ様がどんな形か気になり、そばによろうとすると急に何かが陰から飛び出してきた。
「うわっ!」
ビックリした俺は体制をなおすこともできず、尻餅をついてしまった。
「これこれタマや。お客さんに挨拶せい」
まるで子供でも諭すかのようにやさしい声で老人は言う。
人語がわかったかのように、みぃと鳴き声を残しタマと呼ばれた三毛猫は去っていった。
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