第一章

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茶器から香り立つ湯気が頬を撫でて、広い室内に溶けていく。 黒檀で統一された家具には全て琉国の国花、桜が金箔で見事に彫刻されてあった。 泰白宮後宮東殿、翠色で調えられた居室に佇む東后(トウゴウ)昌晶輝(ショウ ショウキ)は、高く結い上げ玉の簪を挿した黒髪を流すように長椅子にゆったりと腰掛けながら。 手の中の茶器に映し出された自らの憂い顔を見詰めていた…… 三妃立后(サンヒリツゴウ)。 琉国後宮に定めし正妃は四人。 東后、西后、南后、北后。 未だ空位の西后、南后、北后を一度に召し上げるというこの異例の事態に晶輝の心は揺らぎ、澱んでいた。 晶輝の生家昌氏は先代東后、現東太后を輩出する程の国内一を自負する名家だ。 生まれた時から家のために何処へ嫁がされようとも恥ずかしく無い貴族の娘として育てられたのだ。 東后として入宮したあの日から、いつの日かこの後宮で皇后の座を巡り肩を並べた妾妃と共に烈しい女の戦いに身を置かねばならない事は覚悟していた。 だが、それでも胸に込み上げる憐憫を抑え切れない…… 晶輝はただ悲しかった。 この『三妃立后』を他でもない琥珀の口からではなく、女官から伝え聞いた事が――
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