序章

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あくまでも悪びれないその姿に押し黙る琥珀を気にもせず。 建若の舌は浚に滑らかなものとなる。 「半分は手筈通りといったところでしょうか?逆賊の汚名の下、東太后の屍を旗印に赤雪派を駆逐し白雪派に誘導後、此の度の政変に連ねし名門氏家の威勢を削ぐと致しましょう。両国より既に出立の報せが」 「……そうか」 赤雪との因縁の決別から一変し、力無く項垂れる主の姿に建若の唇から優しい溜息が零れる。 「三妃立后(サンヒリッコウ)とは、全く陛下は無茶をなさいますねぇ?」 胸元から装飾布を取り出すと、建若は恭しく主の閉じた指先から滴る血を拭った。 包まれた手の傷を抱きながら、瞳を不安げに瞬かせる。 「……紅家は?」 「一月後には入宮されるでしょう。全く、一番の難関でしたからね。先ずは御役目の優先をお願い申し上げます」 「解ってる……建若、苦労をかけた」 このように憂いを含んだとはいえ、琥珀の笑顔を初めて見たこの瞬間を建若は忘れる事はないだろう。 琉国正妃の最後の椅子、南后に選出されたのは母后の生家紅家の姫。 それは琥珀が唯一、望んだ妃。 後宮に捧げられた哀れな贄であった……
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