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開けてから、覗き穴を見ればよかったと後悔の念が頭を過ぎる。
「お、お待たせしました」
「くくっ、鈍いな。亀の方が幾分速いぞ?」
そこには黒いコートを着た篠原が立っていた。
緊張の糸が緩み、顔が自然と綻びる。
「篠原さん、脅かさないで下さいよ」
「まあ、そう言うな。学ぶべきことが分かったろうに? まずチャイムで騒がないこと、あと覗き穴ぐらいは見るべきだ」
「な、なんで見てないって分かったんですか?」
「君は今、ドアを開けて僕を見てから安心したようだった。そこから察するのは容易なことだ」
全く、余計な処ばかり見てるなこの人は。
「まあ、僕が近くにいることは分かったろう? いざ来たら、今のようなヘマはしてくれるなよ」
篠原はけだるげに手を振り、その場を去る。
癪ではあるが、篠原に感謝しないとな。必要以上に慌てすぎだ。もっと冷静にならないと。
ドアを閉め、鍵を掛ける。部屋に戻り一応戸締まりを確認し、台所に置いたコーラを一口飲んで、ベッドに座った。
もう大丈夫だ。誰が来ても問題ない。……出来れば誰にも来てほしくはないが。
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