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もしかして、誰かが穴を塞いでいるのか?
いや──。
違う、違う違う違う違う違う!
俺は絶句し、嫌な汗を滲ませた。背筋に虫が這うような気持ち悪さを感じる。
穴の向こうの黒には、光がある。動くのが分かるのだ。つまり、これは物か指で穴を塞いでいるんじゃない。見ているんだ。覗き穴の向こうから、こちらを。
知らなかったとはいえ、俺は覗き穴の向こうにへばり付いている誰かの目を見続けていたということだ。
声が出ない、目が離せない。
相手が瞬きするのを見て、やはり目であることを確認した。
いっそのこと叫びたいし逃げ出したいが、体はすっかり恐怖の虜になっていた。動けない、いや動かない。
そうだ、篠原に電話しよう!
覗き穴から目を離し、震える手で携帯電話を操作するが、指先が言うことを聞かず、誤って携帯電話を落としてしまった。
絶望的な音が、静粛な空間に響く。
相手に聞こえるには十分な音だった。俺の頭が真っ白になり、時間が止まったような静けさが漂う。
時計が一秒一秒を刻む音だけ、部屋に浸透した。
相手の反応はいまだにない。
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