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まさか、気付いていないのか? そんな馬鹿なことはないだろう。
絶対に気付いている。そうに違いない。
どうする。とにかく携帯電話を拾うべきだ。
固い体を動かし、携帯電話を拾い上げる。画面は電話帳の画面で、篠原へはすぐに連絡出来る状態だ。
迷わず電話番号を発信する、はずだった。
「そこにいるんですね、花崎さん」
遂に悲鳴を上げてしまった。小さなものだったが、体が跳ねた拍子に、出してしまった。
草野がいる。すぐそこに、あの草野がいるんだ。
後退り、躓きながら壁際まで下がると、耳に残る聞き覚えのある無機質な音が聞こえた。
カチャ、ガチャガチャ、という音。それは鍵を開ける音以外の何でもない音だ。
血の気が引いていくのが自分でも分かった。
「嘘だ」
呟くことしか出来ない。ドアを開け、草野が玄関に入る。そしてドアを閉め、鍵を掛けられた。
「こんばんは、花崎さん」
「どうして」
「鍵は、作りました」
心を読まれたのか、俺が聞こうとしたことの答えを言われてしまい、口を噤んだ。
草野は手に重そうな袋を持っていた。中にはゴツゴツしい物が入っているようだ。
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