12265人が本棚に入れています
本棚に追加
「すいません」
樋口さんは冷たい声で注意をして、奥の事務室に入った。
樋口さんは変わっている。普段ははきはきして、多少温かみのある口調だ。
だが、工場のこととなると一変する。氷のように冷たく、厳しい口調へ変貌するのはなぜだろう。
そういえば、樋口さんの冷たいような感じと、似たのをどこかで……?
「樋口さん、何か怪しいッスよね」
「でもこれ以上の探索は無理ね。また見つかったら、クビになっちゃいそうだもの」
「そうですね。名倉さんのことは気になりますが……」
話し合い、今日は帰宅することが決まった。ロッカールームに戻って、荷物を手に退室する。
工場を出てすぐの所にある、錆びたバス停の前でバスを待った。程なくバスが来て、俺はそのバスへ乗り込んだ。客は二三人で、席が空きすぎているためか広く感じる。どこの席にするか迷っていると、運転手に声をかけられた。
「お客さん、どうも」
「ああ、面接行った時の!」
俺は運転席近くの椅子に座る。
「その様子だと、受かったみたいですね」
「ええ、まあ」
最初のコメントを投稿しよう!