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バスは発進する。それと同時に、運転手は後ろ頭でぽつりと呟いた。
「でも、何かあったんじゃありませんか?」
思いがけない運転手の言葉に、胸が爆ぜる。
「……貴方は、あの工場について何か知ってるんですか」
「少しばかり。なにせ、この町に住んで長いもんで」
車の通りも少ない道を進む。
「何を知ってらっしゃるのですか」
「……あの工場ね。頻繁に人が入れ替わるですが、私は辞めた人を見たことがないんです」
「どういうことです?」
「お客さんみたく、工場に面接行く奴、家に帰る奴、仕事に行くって奴は見ても、あの工場辞めてきたって人は見たことないんですよ」
「そんな馬鹿な話があるんですか?」
「さてね。私が見たことないだけなのかもしれません。でも、十数年運転手やって一度も見たことがないってのも、ありえないんじゃないですかね」
……ありえない。けど、辞めた奴を見たことがないなら、辞めた奴らはどこに行ったんだ?
「あの工場、影薄いけど知る人ぞ知る名所でねえ。何を造ってんのかわからない、人が消える工場だって」
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