二日目

6/11
前へ
/166ページ
次へ
 バスは発進する。それと同時に、運転手は後ろ頭でぽつりと呟いた。 「でも、何かあったんじゃありませんか?」  思いがけない運転手の言葉に、胸が爆ぜる。 「……貴方は、あの工場について何か知ってるんですか」 「少しばかり。なにせ、この町に住んで長いもんで」  車の通りも少ない道を進む。 「何を知ってらっしゃるのですか」 「……あの工場ね。頻繁に人が入れ替わるですが、私は辞めた人を見たことがないんです」 「どういうことです?」 「お客さんみたく、工場に面接行く奴、家に帰る奴、仕事に行くって奴は見ても、あの工場辞めてきたって人は見たことないんですよ」 「そんな馬鹿な話があるんですか?」 「さてね。私が見たことないだけなのかもしれません。でも、十数年運転手やって一度も見たことがないってのも、ありえないんじゃないですかね」  ……ありえない。けど、辞めた奴を見たことがないなら、辞めた奴らはどこに行ったんだ? 「あの工場、影薄いけど知る人ぞ知る名所でねえ。何を造ってんのかわからない、人が消える工場だって」
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12265人が本棚に入れています
本棚に追加