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少し待っていると、バスが来た。停車したバスに乗り込んで、運転手に訊ねると、岩海三番地も通ると分かった。
だがその住所を聞いた運転手の顔は怪訝そうだ。やや渋く低いよく通る声で、俺に質問してきた。
「お客さん、黒のビジネススーツが決まってますね。岩海は工場ばかりだが、どこか面接でも受けに行くのかい」
「ええ、まあ。一真工場って所です」
「……そうかい。お客さんで何人目かな、あそこを受けに行くって言ったのは」
「えっ?」
「まあ、頑張って下さい」
運転手は無表情のまま、俺に席に着くように促すと、バスを発進させた。
11時半頃、赤鉄町岩海三番地に着いた。鈍い銀色の工場が、眼前の全てを塞ぐ。
「意外とでかいな」
近づくと、ゴウンゴウン、と何かの機械音が耳に入る。
工場前で、工場の外観を眺めていると、突然怒声が俺の心臓を刺した。
「そこのお前! そんな所で何してる!?」
声に振り向けば、禿げ頭にもっさりと蓄えた口髭、雪だるまみたいに丸い体型の中年のおっさんが、目を怒らせて向かってきた。
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