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歩くこと、二十分程経った頃だろうか。
草野が帰る先が、遂に判明した。重々しい建造物が眼前をうめつくすほど乱立し、それぞれが月に照らされ、鈍い銀の輝きを放っている。
そう、そこは──。
「一真工場じゃないですか」
「うん、僕達の働く工場だな」
草野は変わらぬ千鳥足で、明かりのない工場へと入って行った。
「怪しいな。酒の酔いなど醒めてしまった」
「は、はい」
「ここまできたんだ。行くぞ」
篠原と俺は草野を追いかけ、薄暗い工場に忍び込んだ。
暗い中、草野が動くのがかろうじて分かる。足元に気を配りながら、静かに着いていくと、草野は奥のドアを開けその向こうへと消えた。
「篠原さん。前に話した、俺そっくりの人形があったの、あのドア行った先です」
「くくっ、間違いなく何かあるな」
小声で話していると、工場内に物音が響いた。それは小さな音ではあったが、無音に近い工場内で響くには、十分すぎる音だった。
俺は身を凍らせた。あの時の草野が思考を埋めたからだ。
だが篠原は逆に冷静だった。咄嗟に固まる俺の腕を掴み、俺は下に引かれて身を屈めさせられた。
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