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-最期の夢-
沈丁花の薫りがした。
季節外れの匂いに誘われ、ゆっくりと振り返った土方歳三は、そこに見覚えのある男の姿を見付け、
「またか……しつけぇな、てめぇも」
と、うんざりした様子で「ふん」と鼻を鳴らした。
「そんなに急かされてもよぉ、まだくれてやる訳にゃあいかねぇんだ……」
土方はそう呟き、手にした得物をスラリと鞘から抜き放つと、その切っ先を男に向けて構えた。
上空から降り注ぐ、刺す様な陽光に照らされた刃は、主の意思に沿うように、ヌラリと妖しく凶暴に光ってみせる。
しかし、男から動じる様子は窺えない。
「ふざけやがって……そんなに俺が憎いかよ?」
絶え間無く込み上げてくる感情を曝け出す様に、土方は殺気混じりに相手を睨みつける。
刹那、耳を劈く轟音が鳴り響き、揺蕩う心と身体は、強引に在るべき場所へと引き摺り戻された。
徐々に現実感を帯びていく感覚が、全身を支配していく。
侵蝕が指先にまで至り、漸く我に返った土方が、ゆっくりと瞼を持ち上げてみると、真っ先に視界に飛び込んできた景色は、幾度となく見慣れた戦場の光景だった。
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