-最期の夢-

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 鳴り響く銃声と、飛び交う男達の怒号。  土埃が舞い上がり、それが霧の様に周囲を包み込む中を、兵達は刀やら槍やらを振り翳し、敵目掛けて突貫していく。  向こうでは、絞め殺される猪にも似た醜悪な悲鳴が、また上がった。  別の場所からは、故郷に残してきた思い人や、家族の名を叫ぶ声が聞こえてきた。  振り上げられた刀は尽く脂に塗れ、鈍と化す。  それでも、最初の一撃で死ねたのならば、まだいい。  切れ味の落ちた斬撃は、命さえ一思いには奪わず、死に逝く者に地獄の苦痛を与えながら、生の意思を一枚一枚剥ぎ取っていく。  大口を開けた傷口から多量の血液を噴き出し、ビクンビクンと痙攣を繰り返す悲しき肉塊。  そいつを不憫に思い、武士の情けとばかりに止めの一撃が加えられて、それで漸く息絶える事が出来るのだ。  しかし次の瞬間には、空を切って飛んできた鉛玉が肉を突き破り、腸を焼き、別の者の命を無慈悲に奪い去っていく。  斬った者が斬られ、殺した者は即座に殺される側の人間となる。  転がり続ける石の様に、そこには表も裏も無く、また正義も悪も無い。  全てが飽和した空間には、ただ不条理だけが佇んでいた。  
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