-最期の夢-

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 疲弊しきった表情に、生気を戻した彼等の目に映っていたのは、もはや蝦夷共和国陸軍奉行並の姿ではなく、かつて“鬼”と呼ばれ、敵からも味方からも恐れられた、一匹の狼そのものだった。  血風吹き荒ぶ幕末動乱期の京にあって、勤王を唱える不逞の浪士達から、“壬生狼”と畏怖された武闘派集団──『新選組』。  血気盛んな彼等を、局中法度という厳しい掟で纏め上げてきた、鬼の副長──。  今、この戦場に居る男は紛れも無く、新選組副長土方歳三、その人であった。 「者共っ! 進めぇぇぇ!!」  土方の号で完全に士気を取り戻した兵達は、一斉に雄叫びを上げ、次々と前線へ復帰していく。  それは歓喜に沸く勝鬨にも似ていて、七重浜より攻め上がって来ていた新政府軍の足さえ、一瞬怯ませる程のものであった。  ──そうだ……俺はこんな所じゃ、まだ終われねぇ。  自らで煽った味方の声に逆に鼓舞され、土方はキッと戦場を睨み付けると、土煙を散らして突貫してきた新政府軍の兵士目掛けて、馬上から刀を振り下ろした。  
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