8人が本棚に入れています
本棚に追加
疲弊しきった表情に、生気を戻した彼等の目に映っていたのは、もはや蝦夷共和国陸軍奉行並の姿ではなく、かつて“鬼”と呼ばれ、敵からも味方からも恐れられた、一匹の狼そのものだった。
血風吹き荒ぶ幕末動乱期の京にあって、勤王を唱える不逞の浪士達から、“壬生狼”と畏怖された武闘派集団──『新選組』。
血気盛んな彼等を、局中法度という厳しい掟で纏め上げてきた、鬼の副長──。
今、この戦場に居る男は紛れも無く、新選組副長土方歳三、その人であった。
「者共っ! 進めぇぇぇ!!」
土方の号で完全に士気を取り戻した兵達は、一斉に雄叫びを上げ、次々と前線へ復帰していく。
それは歓喜に沸く勝鬨にも似ていて、七重浜より攻め上がって来ていた新政府軍の足さえ、一瞬怯ませる程のものであった。
──そうだ……俺はこんな所じゃ、まだ終われねぇ。
自らで煽った味方の声に逆に鼓舞され、土方はキッと戦場を睨み付けると、土煙を散らして突貫してきた新政府軍の兵士目掛けて、馬上から刀を振り下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!