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「君に大きな荷物を、一人で背負わせてしまった。決して下ろす事の出来ない、大きな荷物を……」
「そいつぁ俺が望んだ事だ。それに、荷物だなんて思った事ぁ、一度だってねぇよ」
「では、君は何故ここに居る?」
付き従うべき幕府は、もう無い。だのに、何故戦うのか?
その問いに、土方は即答出来なかった。出来る筈もない。
戦うべき信念など、既に無かったのだから……。
意味も、答えも、持ち合わせてなどいない。
土方がここに居る理由……。
それは……。
「……死ぬ為だ」
武士として、漢として……。
自らが歩んできた道は間違いではなかったと、誇りを持って逝けるように、侍として死ねる場所を見付けてやるのが、新選組の名を慕い、付いてきてくれた仲間達にしてやらねばならない、副長としての最後の務め。
──なぁ……そうだろう、近藤さん……。
薄れていく意識と視界の中に、既に山南の姿は見えなくなっていた。
やはり幻を見ていたのか……。代わりに、青ざめた顔をした才助が、土方の名を叫びながら、こちらに駆け寄ってくる姿が見えた。
しかし、その声は土方の耳には届かない。
黒煙立ち上る空に浮かんだ真昼の月を背に、一羽の鷹が優雅に風に舞う姿を見付けた土方が最後に聞いたのは、懐かしい……とても懐かしい友の声だった。
「トシ……」
沈丁花の薫りがした。
終
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