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クリスマスイブだった。クリスマスイブに私は一人会社に残ってカタカタとキーボードを叩き、せこせこと残業していた。
なにがメリークリスマスだ、なにがサンタクロースだ、こんなの────。
「とんだカタルシスイブじゃない」
自嘲気味に呟いて見下ろした街はクリスマスムード一色。色彩豊かにイルミネーションが煌めき鮮やかだが、それらを含めて丸々クリスマスカラーと呼ぶのだろう。──もちろん、星々の輝く夜空からポロポロと舞い落ちてくるあの白も。
──ホワイトクリスマスイブだった。
「……」
今年は雪、積もるかな? そんなことを思ってみて、なんだかちょっぴり悲しくなった。
──雪が降ると、毎回思い出すことがある。
過去に仲良くしてくれたあの人でも、赤い服を着こなし堂々不法侵入を試みるあの人でもないそれは、今日まで生きてきた私にとってあまりにも短い間だった出会いと別れ。
ちょうどこんなふうに初雪がちらついてきた夜に始まり、太陽が二度空の真上を過ぎれば終わってしまう、幼く淡い冬の幻。
あの頃の私は驚くほどなにも知らず、可笑しいほどひたむきで、悲しいくらい──今の私の心を掴んで放さなかった。
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