トラジェディークリスマス

5/5
前へ
/16ページ
次へ
── ────昨日そこにあったものは、翌日微かな跡形を残してなくなっていた。 雪は太陽に照らされて水に戻る。 知っていた、そんなこと。そんなことを知らないほど無知じゃなかった。けれど────。 「ゆきんこ……ちゃん……」 ……認めたくないじゃない。認められるわけないじゃない。ゆきんこちゃんもただの“雪”だと理解していたとして。 私は昨日『雪を使って遊んだ』んじゃない。『雪と一緒に遊んだ』んだ。そしてその日一緒に遊んでくれた存在が…………消えたんだ。 少なくとも私の中でゆきんこちゃんはゆきんこちゃんで。それ以外の何者でも何物でもなくて。だから『雪が溶けた』で済ませられるわけが──ないじゃない。 ────泣き止むのにそう時間はかからなかった。父の困ったような顔を見て、幼いながらに『泣く』という行為の卑怯さを自覚したのも理由の一つ。でも、本質は違う。 切なかった。 この世にあるあらゆる一切が変わらずにはいられない。そんな真実が。霜焼けのヒリヒリする痛みをいつの間にか忘れていた手が。なんだかとても切なくて────言葉にできない悲しみは形にすらできないのだと、漠然と悟った人生最初のトラジェディークリスマス。 泣いて、知って、諦めて。私は少し、大人びた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加