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慌てて手を引っ込め、辺りを見上げる。
おばさん達は歩道に並び、歓声を上げながら私の居る場所とは反対の方へ手を振っていた。
「大丈夫か!?」
おじさんが駆けよってきて立ち上がらせてくれる。
「…ありがとう。いったいなんなの?」
「ああ、王子様が来るのさ。」
「王子様…?って、第一王子?」
ニュー・カルフィードの第一王子…新聞でよく写真を見る。
王子という呼び名に相応しい、美しく賢い人物だと書いてあった。
「そうだよ。人々の暮らしを見るという名目でたまにやって来るんだ。……人々の暮らしを見たいというなら、こんな所じゃなくクロン村に行けと言ってやりたいよ。」
苦々しい顔でおじさんが吐き捨てる。
クロン村。
それは…私が住む村だ。
オシャレな暮らしを送るこことは違い、あの村は全員が貧しい暮らしを余儀なくされている。
王国は観光客が来る市街地ばかりを発展させようと躍起になり、小さな村などは置き去りにしてきたのだ。
「……」
車のエンジン音が聞こえてくる。
おばさん達の視線の先から現れた黒塗りの高級そうな車。
私は唇を噛み、背を向けた。
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