2730人が本棚に入れています
本棚に追加
黒塗りの車の中は、私の部屋くらいあるのではないかと思える程に広かった。
対面式になっているカーシートで落ち着かない気持ちで固まっていると、王子がにこやかに聞いてくる。
「住んでいる所はクロン村、と言ったかな?景色が美しい場所だね。君の名前を聞いても?」
「…美咲です。」
「ミサキ…?」
王子が驚いたように声を漏らしたのを聞いて、両手を握り合わせる。
…名前を聞かれる度に嫌な思いをするのには慣れた。
だけど、慣れたからといって胸の痛みがなくなるわけではない。
「日本とニュー・カルフィードの血が流れているようです。」
「ハーフか!!しかも日本との?素晴らしい!!…しかし、「ようです」という表現が気になるんだが。」
曖昧な表現が気になるのは、私だって同じだ。
でも…そうとしか言いようがない。
だって、私は知らないのだ。
見た事もないのだ。
自分の実の両親を……。
「……私は、今の父に、10才の時に拾ってもらったんです。それまでは…町のビルとビルの間で、ダンボールにくるまって寝ていました。」
最初のコメントを投稿しよう!