女の顔

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「おう、お疲れー。」 「どうも。」 約束の日。 彼の車に乗り込んで、他愛もない会話を楽しんでいた。 「(よかった、いつも通り…。)」 どこかでホッとしている自分。 でも、その反対に、舌打ちしたい気持ちにもなった。 今日の行き先を知らないまま、私はシートに身体を沈めていた。 途中、彼に電話があった。 彼がコーチをしているスポーツクラブの監督からだった。 「ちょっとごめん。…静かにしててね?」 そう言って、話し始めた彼の左手を、なんとなく見てしまった。 薬指の、指輪。 血の気が引いた。 私は浮かべた笑顔を崩すことなくゆっくりと、外に視線を流した。 目の前には、ギラギラと下劣なネオンが輝く、ホテル街が広がっていた。 彼の車は、着実にそこに近付く。 嫉妬、執着、わけのわからない感情が私を支配していた。 彼の車は、一軒のラブホテルに停まった。 「先に行って、中見てきて。」 彼は自分の荷物をがさがさと整理していた。 ホテルのロビーには、タイミング悪く、先客がいた。 黒いスーツで決めた男性と、赤いスリットの入ったタイトなワンピースを着た女性。 二人とも中年で、値踏みをするような目つきで私をじろじろ見て、笑っていた。 この人達も、不倫かな? 私はにやりと笑い返し、彼を呼びに戻った。 「誰もいないよ?」 「……いや、部屋空いてた?」 「うん。」 「じゃあ、行こうか。」
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