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「うあー、…やっちゃった。」
スケジュールの書かれた紙を取り出した拍子に、ポケットから転がり落ちたリップクリーム。
ピンク色の筒状をしたプラスチックは、コロコロと静かに転がり…
機材庫の入り口…つまり、床に出来た隙間に音を立てて吸い込まれていった。
「…困ったな。大丈夫かな?」
子供心に、あのまま私のリップクリームを放置して、システムの誤作動を起こしたら…とか、事故の原因になったら…とか、勝手に動かして壊しても困るし…などのいらない心配事をして、一人で勝手に焦りを感じた。
結果的に、スタッフとして来ていた作業着姿の男性に、勇気を振り絞って声をかけてみることにした。
彼が忙しそうな様子だったのと、人見知りも手伝って、なかなか声をかける事ができなかった。
「…………よし!…あのー!」
謎の気合いを入れてから、横を通り過ぎようとした彼に声をかけてみた。
「え?ああ。どうしたの?」
彼は笑顔で振り向いた。
なんだか、馬鹿に緊張していた自分が恥ずかしかった。
「あの、そこの隙間にリップクリーム落としちゃって…。」
「ああ!なるほど。待ってね…」
彼は慣れた手つきで床を外して、隙間に体を捩込んだ。
「これかな?」
床に開いた穴から、ひょいと伸びた手には、わたしのリップクリームが握られていた。
「これです!ありがとうございました!」
「いいえ。こんなとこじゃ、自分で取れないもんね。でも、もう落とさないでよー(笑)」
冗談を言う貴方も、好きです。
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