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「ちょっと、沙織、もっとかがんでよ!」
背の大きい沙織は、少し膝を曲げないと、フレームから見切れてしまう。
「奈月、小さいんだから前行ってよ!写らんって!」
その後も4人で、どんなポーズがいいか、落書きは誰がどれを書くのか、終始笑い転げながらプリクラは終了した。
「はい、んじゃこれみんなケータイに貼ってね」
それぞれにプリクラを渡しながら、馨は言った。
「えーケータイに貼るの?」
思わず沙織は怪訝な反応をした。
キャラじゃない。
それはこの場にいる誰もが分かっていることでもあった。
「なーに言ってんの。あたしは沙織に言ったようなもんだからね。他のみんなは言わなくても貼ってくれるような子たちだもん!」
少し膨れて馨はそう言った。
ジョシ特有の、仲間意識。
これで、アナタは私と同じグループだよね。
裏切らないよね。
そこまで重たい意味はないにしても、沙織にはケータイにプリクラを貼る、ということは、グループに鎖でつながれるような、そんな気分になるのだった。
同じ仲間、という再確認。
それをケータイを見るたびにしなくてはいけない気がした。
「貼るのめんどくない?あたし、そろそろ機種変したかったから、貼りたくないなー」
沙織の沈黙を、奈月が破った。
「えー、なっちゃんは一番に貼ってくれると思ったのに」
馨が少しむくれた。
何となく場の空気が悪くなったのを察知して、沙織は
「いや、機種変するときはまたみんなでプリクラ撮り来ようよ!あたしも貼るし!どれにしよっかなー」
とおちゃらけてみせた。
茉希もすかさずそこに同調し、
「あ、あたしこれにきーめたっ!」
と、さっそくゲームセンターにあるはさみでプリクラシートから一枚切り取り出した。
それを見て、奈月も
「そっか。また撮り直せばいいんだね。んじゃあたしこれにしよー。茉希はさみ終わったら貸してっ」
といつものにかっとした笑顔で答えた。
馨も満足げにみんなを見て、自分はどれを貼ろうか、出て来たばかりのプリクラに目を落としていた。
沙織は気づいていた。
奈月はわざと、だ。
私がプリクラをケータイに貼ることに、少し嫌な反応を示していたから、わざと自分が悪者を演じてくれたのだ。
自分が悪者を演じれば、私は必ず場を取り持つと信じて。
何も考えていないような笑顔で、プリクラを切り分けている奈月を見て、沙織は確信めいた気持ちを持っていた。
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