シンユウドウシ

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ワンコールで奈月が出る。 「うわー、びっくりしたー。こっちからかけようと思ってたのに」 奈月は“もしもし”も言わずに、そう答えた。 「いや、メールめんどかったからさ。電話にしちゃった」 沙織はメールが苦手だ。どうもちまちまと文章を打つのがめんどくさい。電話の方が用件がすぐ済むので、幾分か気が楽だったのだ。 「で、どうしたの?2人なんて。めずらしいじゃん」 沙織はさっそく本題に入る。 「いやー、実はさ、男子校の文化祭に一緒に行ってほしいの」 「え!?」 奈月の突然の発言に、沙織は驚きを隠せなかった。 奈月の話をまとめると、こうだ。 毎朝、同じ電車に乗る男の子がいる。その子がすごくカッコよくて好みだと。 制服と下車駅から、学校はすぐに分かった。でも電車で話しかける勇気はどうしてもない。 そのとき、気がついた。 今週末、その学校は文化祭じゃないか。 じゃあ、そこで勇気を出して、話しかけてみよう! そして、沙織を誘ったのだという。 女子校、男子校での文化祭では、いわゆる“ナンパ”というやつがよく行われる。 学生向けの雑誌には、各学校の文化祭日程が載っているくらいだ。 女子校、男子校に通う人たちにとって、文化祭は貴重な“出会いの場”なのだ。 そういった場であれば、女子から男子に話しかけるのも不自然ではない。 それは沙織にもすごくよく分かる。 去年の文化祭でも、男子がたくさん遊びに来ていた。何人かから声をかけられたりもした。 そのときばかりは、まるで共学校にいるような錯覚にさえ陥れる。 「で、何で私なの?私あんまりそういうの、得意じゃないよ」 一通り話を聞き、沙織が答えた。 男子が苦手、とかそういうことはないが、そもそも人見知りしがちな沙織にはあまり適役とは思えなかった。 「てか、4人で行っちゃだめなの?そういうのって」 さらにグループから自分だけがセレクトされた理由も分からず、沙織は続けてこう質問した。
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