the end of the start

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―――桜がほころびはじめ、蕾を大きく花開かせようとする、3月。 ゴーンゴーン。 幸せの象徴とも言える、鐘の音が鳴り響く。 「もう、何回目だろ…」 誰に言うともなく、沙織はつぶやいた。 今日は高校時代の親友の結婚式だ。 気づけばもう26歳。友達の約半数は結婚をした。 慣れた足取りで受付を済ませ、教会の敷地へと足を踏み入れた。 神聖な場だ、と改めて強く主張するように、建物は白一色で染められていた。 その建物の上にそびえたつ鐘の色すら、白。 目を細めると、少し先、教会の入り口から伸びるバージンロードだけが、赤く先まで続いていた。 その赤い道を見ながら、沙織は一人思い出を振り返っていた。 高校2年で出会い、7年を共に過ごした。 一番楽しい思い出も、一番辛い思い出も常に奈月と一緒だった。 「奥山聡 奥山(山口)奈月 結婚式場」 そう書かれた文字を目にし、沙織はふっ、と笑いをこぼした。 奥山 奈月。 聞き慣れないその響きに、まるで親友が遙か彼方遠くへ行ってしまったように感じた。 私の知っている奈月はもういないんだ。 今日ここにいるのは山口奈月じゃない。 奥山奈月。まるで一緒に過ごしたその思い出すら、山口という姓と共にどこか遠くへ流れていってしまったように感じる。 何でこうなってしまったのか。 純粋に結婚式を祝えずにいる自分には、まるでこの場が不釣り合いだ。 周り中の“白”から責め立てられているように感じた。 お前はこの神聖な白い場には似合わない。 白い建物も、白い鐘も、お前を受け入れることはない。 辺り中に広がる白に交わることなく存在している赤いバージンロードのように、沙織だけがこの場所に溶け込めていないように感じた。 「…沙織じゃん!!」 半ば自虐的にその場にいた沙織に、声がかかる。 「茉希っ!」 その声の主は、かつての級友茉希だった。 「私の結婚式以来だね。」 茉希が言った。 茉希は私たちクラスの中で、いち早く結婚した。 22歳のとき、いわゆるできちゃった結婚ってやつだ。 「元気だったの?仕事忙しいんだって?この間の同窓会も来てくれなかったんだから。」 責めるように茉希が言う。 「出版社勤めでしょ?バリバリのキャリアウーマンってやつだね。やっぱ沙織はどこか違うと思ってたよ。」 主婦独特の、早口で妙なイントネーションを使い、茉希は続けた。 「茉希こそ、去年の香澄の結婚式には来なかったじゃん。」
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